互いを思いながらも正反対の道を歩むことになった“悪い魔女”エルファバと“善い魔女”グリンダのまぶしくて切ない物語の結末を描く映画『ウィキッド 永遠の約束』。6日に公開されると、初週末3日間の動員数&興行収入ともに前作を上回る大ヒットスタートを切り、さらに2026年に公開された洋画作品としてもナンバーワンのオープニング成績を残した。今回クランクイン!は、本作の監督を務めたジョン・M・チュウにオンラインインタビューを実施。「いきなり泣ける」と話題の冒頭シーンの演出や、大切な楽曲「For Good」歌唱シーンをシンプルな演出に決めた理由などを聞いた。
■たった数分だけど…手間がかかった冒頭シーン
『ウィキッド 永遠の約束』は、『ふたりの魔女』の少し後の物語。シズ大学で出会い、正反対の性格ながらも固い友情を築いたエルファバ(シンシア・エリヴォ)とグリンダ(アリアナ・グランデ)だったが、オズの国に隠された真実を知ったことで、袂(たもと)を分かち、それぞれが選んだ道を歩むことになる。和解を試みるもその願いは届かず…。さらに突如現れた“カンザスから来た少女”によって、オズの国の運命も大きく動き出す――。
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前作『ふたりの魔女』と『永遠の約束』は、同時進行で撮影された。シズ大学やマンチキン国のシーンを撮影した次の日に「For Good」を撮るような流れもあったそうで「撮影はとても大変でした」とチュウは振り返る。
一体なぜそのような撮影スケジュールになったのか。それは本作が、オズの世界を忠実に再現するために壮大なセットを用いてきたからだ。
エメラルドシティからシズ大学、マンチキン国まで巨大なセットを建造し魔法の世界を創り出してきた本シリーズ。セットが巨大なため、建てるだけでなく、予算の承認を得るのにも時間がかかった。
チュウは「撮影順は『どのセットが先に完成したか』『どの俳優のスケジュールが空いているか』によって決めていきました。アリアナとシンシアはほぼ一緒に撮影できましたが、オズの魔法使い役のジェフ・ゴールドブラムやマダム・モリブル役のミシェル・ヨーらは限られた時間しか来られないので、彼らに合わせてスケジュールを組みました」と説明する。
撮影初期は、小さなセットを使うシーンから進めていった。1週目に撮影されたのは『ふたりの魔女』の「Popular」と「What Is This Feeling?」。それから教室やマダム・モリブルのオフィスのシーンと、セットのスケールがどんどん大きくなっていった。また、撮影地の英ロンドンは、悪天候が珍しくないため、屋外の撮影では、天気が良くなるのを待つこともあった。その上、前編の屋外シーンで雨が降ると、スケジュールの関係で、本来もう少し後に撮りたかった『永遠の約束』パートに移ることもあったという。
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制作上の都合でスケジュールを入れ替えたり、前後編をミックスしたりということは致し方なかったが、それでもチュウは俳優たちの心情のグラデーションも大切にした。
「これだけ物理的に大きい映画を撮影する時は、制作の作業量を考えないといけません。でも同時に、俳優たちの感情の流れをくんで、できるだけ物語の順番に近い形で演じていただくのも大切です。だから寮のシーンを初期に撮影できて良かったです。あれはエルファバとグリンダの二人の出会いだから」と語る。
ちなみに『永遠の約束』で最初に撮ったのは、グリンダがマダム・モリブルからバブルを受け取るシーンだったそう。「僕たちは、どうやってバブルを出そうかと話し合いをしていました。ボタン? それともただ出るだけ? そして撮影当日の朝に思いついたのが、“足でトンとボタンを踏んだらバブルが出る”という方法でした」。
そう言いながらチュウは、ファンが作ってくれたという「Tap to Bubble」ボタンの模型も見せてくれた。チュウの棚にはエルファバのメガネや、エメラルドシティ行きの列車の模型など本作にまつわる小物が並ぶ。
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ところで『永遠の約束』は、冒頭シーンも印象的だ。映画はエルファバ追放後、マンチキン国の人々が魔法使いに命じられ、膨大な量のチューリップを基に、黄色いレンガの道の作らされているところから幕を開ける。レンガを敷くのは、強制労働させられているバイソンたち。前作より状況が悪化したオズの様子に、思わず呼吸を忘れてしまうが、ほうきに乗ったエルファバが現れ、バイソンたちを解放していく。
同シーンの撮影は、とても寒い日に行われたそう。平日はメインユニット、週末はアクションユニットというスケジュールで屋外で撮られ、チュウはアクションユニットに参加した。
「シンシアは自分でスタントをやるので、クレーンを使って飛び回るんです。彼女の登場シーンは、バットマンのようなスーパーヒーロー的にしたかった。でも大きなほうきで戦うのは簡単なことではありません。ほうきも何パターンも用意して、軽いもの、先端がないもの、フルサイズのもの、ただの棒のもの…とシーンに応じて使い分けていました」とエルファバならではのアクションの難しさを語る。
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また三角帽子やエルファバのメイクも気を付けなければならないポイントだった。帽子はつばが広く、シンシアの目に影を落とすため、照明チームが光の当て方を慎重に調整しなければならなかった。さらに屋外と屋内でエルファバの緑色の肌の見え方が異なってしまう問題も生まれ、メイクチームが屋外の寒い環境でも同じ色に見えるよう工夫をこらしたという。わずか数分のシーンにスタッフたちの技術が詰め込まれている。
加えてバイソンはCGIで作られており、撮影では大きな発泡スチロールをつけた人たちが立っていた。冒頭のシーンは考えることが多く、デジタルキャラクター、アクション、VFX、セットのことを同時に念頭に起きながら、撮影を行ったらしく、チュウは「大変でしたけど、エルファバを『本当にヤバい存在』に見せるのはすごく楽しかったです」と満足気だった。
ところで、同シーンでエルファバは空を飛び回る中で、髪の毛を後ろから前へ引っ張る仕草をする。これは『ふたりの魔女』のシズ大学入学シーンなどでも登場するが、撮影中に偶然生まれたものではなく、『ふたりの魔女』の時点ですでに脚本に書かれていたという。話を聞くと、この仕草にまつわる、シンシアとのユニークなやり取りもあったのだとか。
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■「For Good」演出、なぜシンプルに?
「あれはエルファバにとって自然な仕草でした。シズ大学の場面では、顔より先に彼女の肌を見せたいという意図があり、デイナ・フォックスが脚本にその仕草を書いていたんです。なので大学生として最初に登場する場面は、彼女が髪の毛を横にはらって、爪や首だけが見えるカットになっています。エルファバがすごく自然でリラックスしているように見えるんです」とチョウは言う。
ところがシンシアは「どうしてそんなことするの? 普通はしないよ」と最初は理解できなかったそう。しかし会話をする中で、シンシアはエルファバのように無意識に髪の毛をはらった時があり、チョウは「『今の! それだよ!』ってシンシアに言ったんです(笑)」と図らずもシンシアが役とシンクロした瞬間があったと明かす。
そして再び、その仕草が登場する『永遠の約束』でのシーンは、『ふたりの魔女』とは少し違う意味も持つ。「世間はエルファバを“邪悪な魔女”だと思っていますが、この仕草は“彼女は同じ人間である”ということを表しています。フィエロ(ジョナサン・ベイリー)と『As Long As You're Mine』を歌うシーンでも同様の仕草をします。ただ髪をはらうという動作ではありますが、彼女が悪い魔女ではなく“人間”であることを映しました」とチュウは話す。
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壮大な幕開けに続いて、豪華絢爛な結婚式、爆発的なエネルギーを放つ「No Good Deed」など、劇場という環境の恩恵を存分に受けることができる迫力あるシーンが複数展開される本作だが、最も重要な楽曲と言っても過言ではない「For Good」の演出は至ってシンプルだ。カメラは運命に寄り添うように、二人を静かに映し出す。
オーディションの際は、シンシアとアリアナは「For Good」を同じ空間で歌うことはできなかった。コロナ禍でロックダウン中だったからだ。二人が顔を合わせたのは、キャスティング後。チュウはロンドンに行く前に、二人を夕食に招いた。
その場には、作曲家のスティーヴン・シュワルツや脚本のウィニー・ホルツマン、プロデューサーのマーク・プラットも居合わせ、シュワルツが『1曲やってみる?』と食後にピアノを弾き始めたという。その曲が「For Good」だった。
シンシアとアリアナが一緒に歌ったのは、この瞬間が初めて。「彼女たちが歌い終わる頃にはみんなが泣いていて、その時に『この映画はイケる』と確信しました。二人は歌詞を完全に覚えておらず、ピアノの横で歌詞を読みながら歌っていましたが、この“シンプルな状態”がどれだけ強い力を持つのか分かったんです」と美しい思い出を回顧する。
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続けてチュウは「たくさんの巨大なセットを用いて撮影してきましたが、『For Good』はシンプルなセッティングで十分に伝わりますし、大きなセットに負けない楽曲の強さがありました」と今回の演出を決めた理由も吐露。
「楽曲の内容も演出とリンクしています。『For Good』は、エルファバとグリンダが、別れを告げるだけではなく、人生の余計な部分を削ぎ落として、ただお互いを見つめる歌なんです。『大丈夫』と言いますが、二人ともそんな確証はない。それでも相手を自由にするために、お互いを守ろうとするんです。友だちに対してできる、最も美しい犠牲だと思います」と熱を込める。
1979年に米カリフォルニアで生まれたチュウは、現在46歳。人生の中で、素晴らしい出会いも別れも経験してきたと言い、本作は「友情の話であると同時に、人生で手放さなければいけないものの話でもある」と作品の核を語る。
「子供の頃や大学時代、最初の仕事の仲間など、人生で出会った友人たちは、自分でも知らなかった僕の可能性を引き出し、人生を変えてくれました。しかし年を取ると、子どもができたり、引っ越しをしたり、優先順位が変わったりと、以前のように同じ関係ではいられないことに気付かされます。でも例え別れを告げることになっても、一緒に過ごした時間が無意味にはなりません」
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「これはすごく繊細で難しいことなので、映画ではあまり語られないテーマだと思います。映画は起承転結があり、『いつまでも幸せに暮らしました』と終わる。でも僕は人生のほとんどはハッピーエンドじゃないと思います。ただ続いていくものなんです。だからと言って、旅の価値を味わえないというわけでもありません」
「本作が響くのは、友情がテーマであると同時に、人生で手放さなければいけないものの話でもあるからだと思います。現実世界でも、僕たちは別れを告げる瞬間に直面します。でも、それは世界の終わりではなく、僕たちが成長した証なんです」
「この映画は、愛する人との友情だけではなく、『さようならを言ってもいい』というメッセージも込められていると思います。自分たちが真実だと思っていたことが、違うこともあるでしょう。お互いが違う道を歩く姿を受け入れられれば、相手への怒りも減ると思います。思いやりがあれば、未来はきっと美しくなるんです。例え、どうなるか分からなくても」。(取材・文:阿部桜子)
映画『ウィキッド 永遠の約束』は公開中。
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