Hey! Say! JUMPとしての活動はもちろん、『3年B組金八先生』第7シリーズでの丸山しゅう役、舞台『Bug Parade』などその繊細な演技力で輝きを放つ八乙女光。宮城県出身の彼が、東日本大震災をテーマにした舞台『小さな神たちの祭り』で主演を務める。発生から15年が経ち、震災を風化させずに語り継ぐという思いの込められた本作に臨む心境を聞いた。
◆ダメな男がどういう風に切り替わるのか見てほしい
昨年亡くなった脚本家・内館牧子さんが手掛けた同名小説を初めて舞台化する本作。東日本大震災で家族を失った青年が喪失と向き合いながら、周囲との絆や家族の愛の中で再び前へ踏み出していく姿を、脚本のG2、演出の鈴木裕美が丁寧に優しく紡いでいく。八乙女のほか、福田悠太、藤井直樹、堺小春、西尾まり、中村まこと、斉藤暁ら実力派キャストが顔をそろえるのも話題の作品だ。
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谷川晃は、宮城県亘理町のイチゴ農家の長男だが、家業を継ぐのは弟に任せ、東京の大学に進学。2011年3月11日も故郷を離れていた晃は、町を襲った津波で、両親、祖父、弟の家族全員が行方不明となる。復興が進む中でも家族の消息が分からず、「自分だけが幸せになるわけにはいかない」と苦しみ続ける晃の前に、ある日、不思議なタクシーが現れ――。
自身が演じる晃について「津波で家族全員を失ってから時間は経つのですが、家族との時間というのは止まったまま。いろいろな悩みを抱えながらもそれでも前を向くという、“生きる”ということをテーマにした役柄」と語る八乙女。
演出の鈴木は晃について「ダメ人間。でも、震災があったからダメ人間なのではなく、なくてもダメ人間だったと思っている」と語っていた。その晃評に苦笑いしつつ、「農家の長男なんですけども、弟に託してばっかりいて自分は好き放題。東京の大学へ行くことを夢見て、でも東京に行ってもなんかダメで。震災があって、家族の思いを受けてもそれでもダメ。ダメでダメで…っていうのが続くのですが、恋人との出会いやあるきっかけで家族の思いに触れることによってダメな男がどういう風に切り替わるのかというのを見てほしい」と話す。
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そんな“ダメ人間”の晃と自身には重なる部分もあるというが、「でも、晃はそこまで凹むかっていうくらい凹んだりするんです。そこは僕より人間臭くて等身大の大学1年目の男の子だなと感じました。そんな子が、震災を受けて気持ちがダウンしてしまうのはもちろんわかりますし、家族の思いに触れるまで何年も引きずって立ち直れない姿を見ると、この不思議なできごとが起きない限りもう立ち直れなかったんじゃないかなっていうぐらいの危なさというのも感じました」。
同じ事務所で、今回晃の親友役で共演する福田悠太が「八乙女光の晃を見ているんですけど、本当にダメ男で。でもそのダメ男がすごく尊く思えてくるというか。日常の些細なことがとても大事なんだと思わせてくれる八乙女光くんのお芝居、谷川晃をいろんな方に見ていただきたい」と話していたが、晃の弱さも逃げずに見つめ続けた八乙女がどんな等身大の男を作り上げていくのか楽しみだ。
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◆亘理町、陸前高田市を訪問したことが役作りの手助けに
それぞれが特別な思いを持って臨む稽古場は1シーンに長時間もかける熱のこもった雰囲気だ。「台本を読んで、この一言は、この一言は、と1行1行言葉がすごく大切だと感じましたし、それをよりリアルに変えていかなきゃいけないというのはすごく思うので、この作品の中では当たり前なのかなと思ってます。それぐらいかけないと、みんな腹に落として芝居はできない。芝居とリアルの狭間を演じるぐらいの気持ちでいます」と、並々ならぬ覚悟で臨んでいる。
また今回、八乙女は劇中を彩るテーマ曲の作詞・作曲も担当した。「鈴木さんと話し合いを重ねて作っていきましたが、この作品に寄り添った歌詞とメロディーになっています。観に来てくれた誰しもの心に響くように、そしてゆったりと言葉がちゃんと伝わるように、テンポも少し遅めのあったかい曲にしてあります」と出来栄えに自信を見せる。「劇中では藤井くん演じる弟の航がギターを弾いて、子どもたちが僕に向かって歌ってくれるんです。自分で作詞作曲した曲なのに、ウルっとくるんですよね(笑)。お客さんにも伝わったらいいな」。
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八乙女は物語の舞台の亘理町にも足を運んだ。宮城県出身ということで、幼少期には海水浴などで訪れたこともある土地だったが、「キレイになってしまった」という印象を抱いた。「震災前はもっと漁師さんがいたり、船があったり、もっとごちゃごちゃっと町があったんですけど、今はなんかすごくキレイで、舗装もしっかりされていて。それは復興の表れではあるんですけど、なんかこう、心のどこかにある虚しさをくすぐるような景色に映りました」と明かす。
亘理ではイチゴ栽培に携わる地元の人とも交流を持った。「作品に出てくるイチゴ農家と似ている形で、ご家族でやられている方だったのですが、すごく広いハウスを数人でやられているんです。震災があってそこまで持ってくるにはすごい気力が必要だったと思い、『どうしてここまでイチゴを育てるのを続けられたんですか?』と伺ったんですけど、『毎年同じイチゴは作れない』っておっしゃったんですよ。なんかそれって、僕が舞台をやるにあたって、舞台って毎日同じ芝居をやるんですけども絶対同じ芝居はできないということに似ているなって感じました。イチゴと舞台だけでもこういう共通点があるんだって不思議な思いをしましたし、お話を聞けて本当によかったです」と感謝。さらに「亘理のイチゴは本当に美味しいので、たくさんの人に食べてもらいたいです」とアピールも忘れなかった。
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物語には、陸前高田市に実在する「漂流ポスト」が作品の大切なモチーフの一つとして登場する。八乙女は現地を訪れ、漂流ポストに寄せられた手紙を読んだ。「ファイリングされたお手紙を読ませていただきましたが、手紙ってすごく大事なことを書くこともあるんですけど、僕が読んだ手紙の中には『ちょっとこの間足首ひねっちゃったんだ。でも大丈夫だから心配しないでね』みたいな日常の何気ないことが書いてありました。そういうことだよねって思ったんですよね。亡くなったおじいちゃんのことを思ってどういう手紙を書きたいかとなったら、『もう30歳を超えたよ』とか、それぐらい他愛もないことを書きたいんです。字に迷いがなく何気ないことから芯のある言葉まで書いてある手紙を読ませていただき、みなさんの思いの強さがすごく伝わりました」。亘理、陸前高田を巡って感じた、さまざまな気付きは八乙女の演じる晃をより深いものにしてくれそうだ。
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◆作品を通して普通の日常の大切さを伝え、未来に繋がる復興に
2011年3月11日、八乙女は東京にいた。「たまたまお休みで、お母さんと普通の日々を過ごしていたんですけど、揺れを感じて大きかったので2人で机の下に隠れました。テレビをつけたら、東北が大変なことになっていて…。当時はずっとテレビを見続けるしかなかったので、知ってる街がどんどん変わっていく状況に、何かしたいけど、でも何もできないという無力さですごく悔しい気持ちを抱いたのを覚えています」。
改めて本作に込める思いを尋ねると、「15年経って、今こうやって改めて復興や東北のことを思い出そうとなると、やっぱり3月11日の当日しかどうしても振り返らなかったりする。僕も岩手の伝承館に行って当時の映像を見たのですが、『そうだ、こういうこともあったんだ』と、僕自身も忘れてしまっていることもあるんですね。この作品を通してより深く思い出して、それで、暗くなるのではなく、明るい未来に繋げるため、そして日本っていうのはいつまたこういう災害が起きるかわからないので、備えるということにも繋がりますし、この作品が気持ちのお守りになったらいいなと思っています」と思いを吐露。
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「震災当時無力で悔しい思いをした僕は、15年という月日が経ってこういう大きなプロジェクトに参加できることができて、本当にやる気に満ち溢れています。観に来てくださった方には、普通の日常というのがどれほど大事で、どれほど毎日の心の支えになっているのかというのを感じていただいて、未来に繋がる復興になったらいいなという思いで、カンパニーみんなとこの作品を届けたいと思います」。
演出の鈴木は「この作品は震災についてのお芝居ですが、震災について勉強しようというお話ではないです。ダメ人間が、彼を大事に思ってる人たち、それから彼が大事に思ってる人たちの中で、どうやって人間的に復活するかっていう話なんです。生きてようが死んでようが、自分を大事に思ってくれる人、それから自分が大事に思っている人、そうした人たちがそばにいるんだから、その人たちと一緒に生きていこうぜ!くじけんな!っていう話になっている」と語っていた。そうした物語の中で八乙女がどんな主人公を体現してくれるのか期待が高まる。(取材・文:近藤ユウヒ 写真:高野広美)
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舞台『小さな神たちの祭り』は、東京・東京グローブ座にて3月30日~4月20日、福島・けんしん郡山文化センター大ホールにて4月24日、大阪・森ノ宮ピロティホールにて4月30日~5月4日、岩手・トーサイクラシックホール岩手大ホールにて5月10日、愛知・COMTEC PORTBASEにて5月14日~15日、宮城・東京エレクトロンホール宮城にて5月22日上演。
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