一人称「僕」、Tシャツにジーンズ姿でサンパチマイクを前に動き、叫ぶゆッちゃんwと、それを冷静に諌めているように見えてその世界に巻き込まれていく松永勝とし(※「とし」は「“五”の下に“心”」が正式表記)。2024年のM-1グランプリで準決勝に進出し、一躍注目を集めた十九人。彼らの漫才は一度観たら忘れられず、何度か観るうちにやみつきになってしまう。立命館大学での出会いから、エンタメ感あふれる単独ライブのこと、賞レースへの思い入れも聞いた。
◆2年間で結果を出すためにゆッちゃんwを誘った
――お二人は立命館大学の演劇サークルで出会われたそうですね。
松永:相方は高校時代から演劇をやっていて、大学で演劇サークルを周りの人と立ち上げて。
ゆッちゃんw:そうです。
松永:僕も高校から演劇をやってはいたんですけど、実は当時からお笑いをやりたいと思っていて。高校生でお笑いができる場所ってあまりないから、舞台に立つ機会を持とうと入った演劇部だったんです。で、大学で友達が入ったサークルに顔を出してみたら、この人(ゆッちゃんw)を見つけました。
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ゆッちゃんw:偶然の積み重ねで。縁が途切れなかったのでここまでやってきた感じです。
――松永さんはお笑いを見据えて演劇を。ゆッちゃんwさんはなぜ演劇部に?
ゆッちゃんw:僕は北海道出身なんですけど、TEAM NACSというすごい5人組がいて、道民からしたら身近な存在で。観ているうちにかっこいいなと思って、演劇をやってみたくなりました。あと、中学では合唱部で部長までやったんですけど、けっこうしんどくて、本気でやりすぎて、合唱はやりきったなと思って。
――大学では既存の演劇サークルに入るのではなく、自分たちで新たなサークルを立ち上げたんですね。
ゆッちゃんw:高校時代に長いコントみたいな芝居をやっていたので、そういうのを自由にやりたいということで立ち上げました。松永くんはサークルにたまに顔を出す程度だったんですけど、新歓公演に出たせいで、こっちとしては入部した認識になっていて。部費をもらってました。
松永:友達に誘われて、ゆッちゃんwの劇団を初めて観に行った日に、新歓公演はコントをやりますと言っていたので、「じゃあ」ってその日にコントを書いて渡したんですよ。
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ゆッちゃんw:これがめちゃくちゃ面白くて「天才だ!」って。
――松永さんがゆッちゃんwを相方として誘ったきっかけは?
松永:大学でお笑いをやろうと思いながらも3年生になってしまって、「今やらないともう社会人になってもやらないだろう」とようやく腰を上げました。でも卒業までの2年で、真面目にお笑いをやって結果を出すのは無理だろうと。だったら、変なことをしてくれそうなヤバい人を相方にするしかないと思ったんです。
――ゆッちゃんwさんは誘われてどう思いましたか?
ゆッちゃんw:松永くんがお笑いから遠い場所から、僕を連れ回し始めて。「今日は動物園がタダらしい」とか「Google Earthで遊べる展示をやってるらしい」とか。この人、僕のことが好きなのかな?と思ってたら、急に地下のお笑いライブに連れて行かれて、その日に「あれをやってくれないか」と。どうしようと思ったんですけど、松永くんの書いたコントが面白かったし、この人がやろうと言うならやるぜと思って、二つ返事でオッケーしました。
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――出会った頃は劇団でコントをやっていたお二人が、なぜ漫才を?
松永:大阪はお笑いといえば漫才が9割なので、自然に漫才を選んでいました。
ゆッちゃんw:僕は最初、コントと漫才の区別もついてなくて。最初に渡された漫才の台本を、演劇みたいにセリフを入れて、キャラクターを分析して演じようとしたら、「これは漫才だから、君自身でやってほしい」と言われて、頭が変になりそうでした。
松永:最初の頃はずっと「素でやって」と言ってましたね。
ゆッちゃんw:意味が分かんなくて。でも今思えば、それがよかったのかもしれないです。コントだったら自分を出すのにもっと時間がかかっていたかもしれないので。
◆「みんなの意表を突きたい」エンターテイメントな単独ライブ
――十九人の漫才は、どれもネタの中でカオスな状況が起きますよね。松永さんはどういう気持ちでネタを書かれていますか? カオスであればあるほどいいのか、松永さんの中では筋が通っているのか。
ゆッちゃんw:どうなんですか?
松永:僕らのネタの中で変なことが起こるとしたら、ゆッちゃんwが起こしてるんですね。だからそれに巻き込まれる僕から見ると展開として飛んでいることもあるんですけど、ゆッちゃんwの中で筋が通っていればオッケー。ネタを考えている僕自身も「変だけど、こういうこともあるか」と思えたら、オッケー。
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ゆッちゃんw:僕は自分の中で納得していないと出力できないタイプで。他の人から見て不思議な状況であっても、すごく些細なことでもいいから「ここが繋がってるからだ」と納得できれば、大丈夫。
――たとえばYouTubeにもアップされている「耳が痛い理由」のネタなら、耳を引っ張る理由が、ゆッちゃんwさんの中で納得できていれば大丈夫?
ゆッちゃんw:そうです。耳を引っ張っているから痛いってことがこの人の中で繋がってなくて、痛いことだけに気づいちゃって、助けてほしいと思ってるんだろうと。
――なるほど、納得できているということですね。あんなにインパクトのあるネタを披露しているお二人がいちばん影響を受けた人やものってなんですか?
松永:うーん、なんだろう……。影響を受けた人で答えているのは、世界のナベアツさん。小3の時にナベアツさんがブームになって、僕小2で九九を習ったばっかりだったから、楽しくて。あの時の僕にとっては時事ネタでした。
ゆッちゃんw:僕は忘れられない言葉があって。高校が立命館だったので、大学進学に論述が必要で。そのテーマを決めあぐねていたら、父に「あなたが興味あるのも大事だけど、それを他の人が読んで意味のあるものじゃないとダメなんじゃない?」と言われたんです。その時自分のことしか考えてなかったなと思って。以来、迷ったときは「他の人がよくなる方はどっちだろう?」と指標になった言葉です。
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――その指標は、自分のやりたいこととお客さんの求めていることのバランスをとる芸人という仕事でも大事なことかもしれませんね。ではネタについて伺ったところで、単独ライブの話を聞かせてください。お二人の単独ライブは、漫才師の単独としては珍しいくらい盛りだくさんですよね。コントもあるし、幕間にお楽しみのような時間もある。なぜあんな形になったのでしょう?
ゆッちゃんw:事務所の先輩方(ザ・ギース、ラブレターズ、阿佐ヶ谷姉妹)の単独ライブって、ネタの合間も繋がっていて「この人たちを見られてよかった」という雰囲気があるんです。せっかくこの事務所にいるなら、こういう単独ライブにしたいなって。
松永:あと、僕はオムニバス的なものより、全部を通して一つの作品にしたくて。漫才だけじゃなく、楽しめる部分をいっぱい作った上でさらに筋が通っていたらいいなと思って、総合的なエンターテイメントとして単独を作りたいと思っています。
ゆッちゃんw:単独って特別なものと思ってもらいたいもんね。
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松永:そう考えると、この人を誘った時から変わらず、僕は他の人がやっていないことをやりたいという気持ちが強いのかもしれないです。みんなの意表を突きたい。
――今回のタイトルは『MOON(ムーンヌ)』。
ゆッちゃんw:前回までは『ファンク』とか『風侠無頼』とか、聞いただけで雰囲気がある程度分かるようなタイトルで。それによって自分たちに制約をかけて、その枠の中でやっていたんです。でもやりたいことはいっぱいあるから、もっと自由にやれるように、あまり色がついていない言葉をタイトルにしようと。せっかくだからシンボルが欲しいなと思ったら、松永くんが「月」を思いついてくれました。
松永:タイトルはすごくスムーズに決まりました。今は内容を考えている途中ですけど、いいものになりそうです。
◆すでに12回の喧嘩が発生している単独ライブへの道
――今年の十九人のモードを伺いたいです。2024年にM-1グランプリで準決勝を経験されて、2025年は準々決勝で敗退となりました。かねてから松永さんは、インタビューなどで「勝ち負けはどうでもいい」とおっしゃっていましたが、今はどんな気持ちですか?
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松永:2024年の準決勝で「もう1個勝ったら決勝だったんだ」と思って。でも決勝って、2本ネタが必要なんですけど、あの年の僕らには2本勝負ネタはなかった。だから去年、2025年はちゃんと勝とうと1年間やってきて、面白いネタ、2024年よりもいいネタができて、準々決勝に挑みました。で、ウケた。虎が駆け回ったくらいウケたとも言われて。
――“虎ウケ”ですね。
松永:でも準々決勝で落ちたんですよ。もちろん勝ちたかった。ただ、負けたけど面白かったよな、と思えたんです。去年「M-1で勝つには」みたいなことをやって負けたから、一旦考えなくていいや、今は自分が面白いと思うことをやっていればいいんだと改めて思えました。
ゆッちゃんw:あ、そうなんだ。
松永:最近作るネタってあまり力入ってないでしょ?
ゆッちゃんw:力はもちろん入れてるけど、確かに肩の力は抜けてるかも。あの、賞レースのためのネタって、遊びがなければないほどいい感じがするじゃないですか。
松永:「ここでウケる」がしっかり積み重なっていくネタね。
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ゆッちゃんw:でも、ライブでお客さんが本当に楽しそうにしているのって、そのライブならではの要素をちょっと入れるとか、その日あったニュースにちょろっと触れるとか、そういう漫才なんですよ。これは絶対に漫才の強みだし、お客さんも喜ぶし、どうせ観てもらうなら楽しい思い出にしたいじゃないですか。だから、お祭りみたいなネタで勝ち上がれたらそれが一番いいなと思います。もちろん勝ちたいという気持ちはある。お客さんも「私の好きな十九人はこんなにすごい」と言いやすくなるから。
――たしかに、お二人は特にそんなふうに自由であってほしいコンビという気がします。
松永:僕ら男女コンビなのに、殴り合っているとウケるんですよ。
ゆッちゃんw:いいポジションに納まってるよね。
――最後に、記事を読んでくださった方に向けて一言お願いします。
ゆッちゃんw:この記事を読んで、僕らを深く知った上で、単独ライブを観にきていただきたい。僕らがやりたいことが死ぬほど詰め込まれているので、絶対に楽しいと思います。ぜひ足をお運びください。十九人でした!
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松永:終わらせないで。えーと、この取材を受けてる時点で、単独の中身については、相方ともうすでに12回ぐらい喧嘩してます。それくらい頑張って作っています。喧嘩した甲斐があったと思いたいので、ぜひ観に来てください。
――どういうことで喧嘩するんですか?
松永:僕が意見を通しすぎとか。
ゆッちゃんw:なかなか意見を聞いてくれなくて。でも今のところちゃんと、二人の考えの真ん中の案を生み出せています。
――お二人は松永さんのお姉さん含めて3人で住んでいますよね? お姉さんがいてもケンカはしますか?
松永:家でもします。ただ姉がいる時はあんまりしてないかもしれない。姉も単独ライブを楽しみにしているから。
ゆッちゃんw:一昨日くらいにお姉ちゃんが隣の部屋にいる状態で単独の話をしていて。声に出すと聞こえちゃうから、筆談で揉めました(笑)。
(取材・文:青島せとか)
十九人 第4回単独ライブ『MOON(ムーンヌ)』は、8月27日~29日東京・渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールにて開催。
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