2026年4月より、東京芸術劇場の舞台芸術部門芸術監督に就任した岡田利規が、就任第1作『映画を撮りたいゾンビの演劇』を8月7日~23日に東京芸術劇場 シアターイーストで上演する。本作は、ドイツのハノーファー州立劇場のレパートリー作品として5月に初演を迎えた岡田の最新作『Sliding Away』を、新たに日本版の出演者・スタッフとともに創り上げる作品。舞台となるのはゾンビ映画の撮影現場。そこに現れた5人のゾンビは、ゾンビのゾンビによるゾンビのための映画を作りたいと、私たち人間の観客にさまざまな問いを投げかける。岡田にドイツでの上演の手応えや日本公演に向けての思い、芸術監督としての展望などを聞いた。
◆ドイツで初演を迎えた本作 クリエイションのプロセスの中で手応え感じる
――非常にインパクトのあるタイトルですね。本作を執筆するに至った経緯や、発想のきっかけを教えてください。
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岡田:ハノーファー州立劇場の方たち、つまり、劇場のドラマトゥルク(演劇の専門アドバイザー的な立場の役職の人)や僕の通訳も担ってくれているプロダクションのドラマトゥルク、それから舞台美術のDominic Huber氏たちと、ブレストをしていく中で、ゾンビというアイデアが出てきて、面白いなと思ったことがきっかけでした。
――2026年5月にはハノーファー州立劇場で上演されました。実際に上演されて、手応えやお客さまの反応はどのように感じましたか?
岡田:初日の1ステージしか観られていないのですが、反応は良かったです。ただ、初日は特別なものなので、その印象だけで語るのは不十分だと思います。ですので、そのお客さんの反応よりも自分の中で良かったと思うのは、クリエイションのプロセスの中での手応えでした。ハノーファーの俳優やメンバーといいものが作れたということです。それから、テキストです。東京の公演でも同じテキストを扱いますが、そのテキストに対しての手応えも感じられました。一緒にやっている俳優たちがそのテキストをすごく面白がって、取り組みがいがあると感じてくれたのを感じられたからです。
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――そのテキストを持っての日本公演となりますが、今回の上演にあたって、どのようなところをブラッシュアップしていきたいと考えていますか?
岡田:テキストは、本当に瑣末なところしか変更はしていません。ハノーファーで上演したときは、俳優たちが発するのはドイツ語なので、僕はその言葉を直接理解して感じることはできませんでした。ただ、そこにいたメンバーたちはそれができるので、その人たちを信頼し、演出をつけてきました。東京では、俳優が発する言葉が分かるので、それを見て自分で面白いと思うものができます。
――ドイツで創作するときと日本で創作するときに、その工程にはいろいろな違いがあるのではないかと思いますが、日本で創作するメリットはどんなところなのですか?
岡田:僕が日本語が分かることです。
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――それはコミュニケーションを取りやすいし、先ほどおっしゃっていた俳優が発する言葉が分かるということですか?
岡田:コミュニケーションについてはもちろんあると思います。ただ、それを引き換えに日本だとコミュニケーションを取りやすいから日本でのクリエーションのアドバンテージがあるというふうには言いたくないです。それよりも、僕が日本語が分かるということです。それはセリフが分かるという意味です。セリフが分かるので、そのニュアンスについてもフィードバックできる。今は、稽古でちょうどそれをやっています。ドイツでは、そこまではできないんですよ。それは僕がドイツ語が分からないから。
――なるほど。作品を創作する方向性は、ドイツと日本で意識的に変えることはあるのですか?
岡田:僕という個人が意識的に変えることはないです。ですが、集団で作るものなので、そこには俳優だけでなく、デザイナーなど携わるメンバーがいて、彼らによって変わることもあります。今回は、舞台美術も概ね同じです。ステージのサイズが違うので微調整をしていますし、舞台美術で使う車の車種が違うということはありますが、コンセプトは一緒です。そうした同じもの以外は僕の意図ではなく、自ずと変わる。それがいいのだと思っています。
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◆シアターゴーアーではない方にとっても行くに値する場所と考えてもらえるシアターに
――本作の演出で、岡田さんが一番意識されたのはどういったところですか?
岡田:観客との関係です。
――それは観客との距離感の近さということでしょうか?
岡田:関係は必ずしも近さだけではないです。舞台上で問題にされていることや、それを問題にしているキャラクターと観客との関係。分かりやすくいうと、味方なのか敵なのか、といったことを意味しています。仲間だと扱われているときと、敵対する存在だと扱われているときでは、観客が舞台上で行われていることから受ける感覚や印象、経験、気持ちは変わります。そうした上演と観客の関係を今回は特に意識していますし、そうした話を俳優ともしています。
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――それは登場人物がゾンビであることも関係しているのですか?
岡田:関係しています。人間はゾンビをどう思っているのか。これを読んでいる皆さんの中にも、それはあるはずです。お客さんがゾンビに対して感じているものを前提条件にして、この上演を行なっています。扱うことがゾンビであることと、観客が人間であるということが重要です。
先ほどの、今回の上演で演出をする際に大事に思っていることとして挙げた「観客との関係」をもう少し具体的に話すと、俳優が、舞台上で演じられるキャラクターはゾンビです。そして、それを演じている俳優は人間ですよね。そのことと、観客は人間であるということ。そうした条件を持っている上演が起こせるポテンシャルを、できるだけ起こせたらいいなというのが今、一番心がけていることです。お客さんには、それを経験してもらえたらと思います。
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――すでにお稽古が始まっていると思いますが、今回の日本公演に出演される5名のキャストの皆さんとのクリエイトはいかがですか?
岡田:すごく順調です。初めての方ばかりですが、6月10日から稽古がスタートしているので、すでに1ヵ月以上、稽古を行なっています。今回、8週間の稽古を予定しています。それは一般的な日本の演劇の稽古期間からすると長いようですが、8週間くらいは必要だと思います。先ほどから僕がここでお話をしていることは、何を話しているのかよく分からないと思います。でも、俳優には、それを理解してもらう必要があるんです。そして、それを実際にパフォーマンスとして表現しなければいけない。俳優たちはパフォーマンスをする力を持っていますが、それでも時間が必要なので、そのためにも稽古期間を長くしていますし、そうした時間を過ごしています。
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――今回の上演で面白いと思ったのが、ロビーでのカームダウンスペースの設置やモニター鑑賞エリアの設置、上演中の入退場可などの取り組みです。すごく自由な観劇が可能になるのではないかと感じましたが、そうした取り組みについての思いも聞かせてください。
岡田:できるだけいろいろな人に観てほしいと思っています。今、挙げていただいたようなことが用意されているのであれば、「それがなければ自分は行けない」と思う人が来ることができる。その状態を整えたくてやっています。ただ、これは特別なユニークな取り組みとは思っていないんです。素朴な取り組みだと思います。それが良いということだったらいいなと思っています。
――岡田さんの作品では、これまでにも同じような取り組みを行なってきたのですか?
岡田:いつもやっているわけではないです。ただ、今回は、東京芸術劇場の芸術監督という立場に立っているので、やってみようという面はあります。
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――そうした取り組みは、今後も続けていきたいとお考えですか?
岡田:東京芸術劇場で行う自分の作品としては、これからも続けていきたいですし、それを前提に考えていきたいです。
――そうしたさまざまな取り組みもそうですが、芸術監督として、今後、どのような展望をお持ちですか?
岡田:東京術劇場で行う公演、そして公演ではないことも含めて、できるだけさまざまな人に関係のあることだと思っていただけるようなことをやりたいですし、そういう場所であることを伝えていきたいと思っています。人というのは、別の言い方をすると文脈です。人はさまざまな文脈に属して生きていますが、その人が問題だと思っていることがあっても、苦しんでいる問題があっても、劇場に来ることができればいいなと思います。いわゆるお芝居が好きな方やシアターゴーアーの方は、劇場に自発的に足を運んでくださるので、それはとてもありがたいです。ですが、シアターゴーアーではない方にとっても、シアターは行くに値する場所であると考えてもらえる場所にしていきたいです。
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――改めて、読者へのメッセージをお願いします。
岡田:演劇を刷新したいと思って作っています。それは演劇を観るという体験の刷新です。さまざまな刷新があると思いますが、僕なりのそれを経験していただけたら、きっと楽しいのではないかと思います。
(取材・文・写真:嶋田真己)
『映画を撮りたいゾンビの演劇』は、8月7日~23日、東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて上演。
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