もしも、あのとき違う選択をしていたら……。誰の心にも一度は浮かぶその問いを見つめる舞台『回転する夜』が、8月に上演される。蓬莱竜太が手がけた戯曲を、役者としても活躍する古谷大和が演出。サダオ役の和田琢磨、千穂役の立道梨緒奈、そして10年前と同じくノボル役を演じる赤澤燈に、稽古の手応えと作品への思いを聞いた。※蓬莱竜太の「蓬」は「一点しんにょう」が正式表記
◆等身大の人の生き様を描くのが蓬莱竜太作品の最大の魅力
――赤澤さんは10年前にも同じ役を演じられています。10年ぶりにノボル役に挑んでみて、今いかがですか。
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赤澤:実はちょっと前に、10年前の『回転する夜』の映像を観たんですが、すごく悔しくて。当時は当時の全力でしたが、今の段階で触れたかったなと。ちょうどそんなタイミングで、10年越しに同じ役を演じられることになって。役者人生のなかでも、すごく心に残っている役だったこともあり、すごくうれしいです。
――立道さんは稽古の手応えはいかがですか。
立道:課題がもりもりすぎて(苦笑)。特に今、苦戦しているのが、千穂という人物が持つ「色気」の部分で。でも、色気とは……と。最近は女性俳優さんやタレントさんの動画を拝見して模索しています。
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赤澤:アハハハ!
立道:でもまだ掴めていなくて。色気以外の部分においてもキャラクターを探らなきゃいけない部分がたくさんあるなと思いながら稽古しています。
――和田さんは蓬莱竜太さんの作品は2作目となりますが、本作、あるいは蓬莱作品への印象を教えてください。
和田:初めてご一緒したのが5年前なんですが、ちょうど蓬莱さんとお酒を飲んでいるときに今回の作品の連絡が来て、タイミングって面白いなと。彼の作品の魅力は、ダメな人間が出てくることが多くて、人の愚かさを描くのがすごく上手なんです。愚かというと聞こえは悪いですが、何かが欠落していたり、足りない人間が何かを追い求めている姿ってすごく美しい。それを説得力を持って描くのが上手い。等身大の人の生き様を描くのが、彼の最大の魅力だなと思っています。
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――それぞれの役をどんな人物と捉え、どうアプローチしていこうと考えていますか。
赤澤:僕は1回演じているからこそ、難しいなと思っていて。一度演じた役って、まだ自分の中のどこかに残っている感覚があるんです。とはいえ共演者も演出も違うので、今回は周りを頼りながら、一回一回の公演を新鮮に、舞台の上で生きているだけでいいような作り方ができればなと思っています。
立道:千穂はすごく優しくて、温かい人。色気も、自分から出すのではなく自然とにじむ魅力で、その絶妙なラインを狙えたらと思うんですが……私、本当に千穂とは正反対で。あの温かさみたいなものは、まだ自分にはない気がして。(赤澤を見ながら)ねえ?
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赤澤:いや、そんなことないですよ!
立道:言わせたみたいになっちゃった(笑)。
赤澤:今回3回目の共演なので、わりと彼女のことを知っているつもりでいますが、たしかに千穂とは全然違う人だとは思います。でも僕としては、だからこそ面白いし、楽しみです。
――和田さんはいかがでしょうか。
和田:サダオとは共通点が多くて。自分の父親も昔、建築系の会社を経営していて、僕も長男なので会社を継げと言われたこともありました。だから、演じるというより、等身大の自分の生っぽさを、そのままサダオに乗せられたらいいなと思っています。
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◆古谷大和の演出に絶大なる信頼
――役者仲間の古谷大和さんが演出を手がけます。演出家としての古谷さんの印象はいかがですか。
赤澤:演出家として、どうやりたいかというビジョンが明確にあるんだろうなと。今はまだ様子を見てもらっている段階な気がしますが、行きたい方向へどう誘うか、考えてくれている印象です。
立道:指示が本当に的確なんです。
赤澤:そう! 女性の役への演出も上手いよね。
立道:本当に。稽古の序盤で、「こういう癖があるから」と癖まで見抜かれていたり、「ここでは千穂はきっとこうするよ」と私より色気を分かっていたり(笑)。ものすごく分かりやすくて、勉強になります。
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和田:僕は大和さんとは一度共演していて。自分の演技や周りを俯瞰して捉える力がある方で、僕らが感覚でやってしまうことを、彼はちゃんと言葉で説明できる。そこにものすごく信頼感があります。
――本作は「もしも、あのとき違う選択をしていたら」がキーワードのひとつです。それにちなみ、皆さんが「もしもあのとき」と思うことがあれば教えてください。
赤澤:僕、あんまり過去の記憶がなくて(笑)。多分、自分を守ってるんですよね。だから「もしも」があまりないタイプ。怖いから忘れて生きている気がします。
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立道:もしダンスをやっていなかったら、ゲームが好きなのでゲーム会社に就職したかったんですよ(笑)。そっちの道もあったのかな、と思うことはあります。
和田:もしあのとき父の会社を継いでいれば、僕は東京にはいません。ただ、父は退いてから体を壊してしまったので、継いでいれば違う状況になったんじゃないかと。そういう葛藤は消えることはないですね。
――最後に、この作品がどんな作品になりつつあるかという期待も込めて、読者へのメッセージをお願いします。
赤澤:スーパーポジティブに生きられる人以外、誰の心にもあるものを描いた作品だと思います。周りから見たら小さいことが、自分にとっては大きくなってしまう。そんな身近な話が核なので、固くならず観てほしい。僕にとって個人的に大事な作品なので、命を込めて舞台の上で生きられたらと思っています。
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立道:今、燈さんが言っていて、なるほどなと。私、自分はポジティブな人間だと思っていたんですけど、この稽古をしていて、えぐられる感覚があって。本当に誰にでもあるものを描いているんだなって、今実感しています。いろんな思いを抱えた人物がいて、それぞれが乗り越えていく。そういうものが詰まっている作品です。ぜひ劇場に遊びに来てください。
和田:蓬莱さんの作品は、人の弱さや愚かさの間から、細い光のような希望が見えてくる。自分にも刺さるものがあって、ヒリヒリしながら観てしまうんです。今回も大きな出来事が起きるわけではないですが、観終わった後、うっすら一歩前に進めたような感覚を、お客様にも、我々も持てたらと思っています。
(取材・文・写真:双海しお)
舞台『回転する夜』は、8月14日~23日東京・シアターサンモールにて上演。
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